一人っ子同盟 -国境の南、太陽の西から。
自分に大きな影響を与えた本がある。それは、村上春樹の国境の南、太陽の西という本だ。その本がどのように自分に影響を与えたか、と身の上話をする。
自分の境遇と長年の違和感
初めて会って、相手はどういう人かを理解していくうえで、出身や好きな食べ物、趣味などを聞くのはごくごくふつうのことだ。
そのなかで自分には苦手な質問があった。
兄弟はいるの?という質問だ。
正確に言えば、そう質問をされるのは別によかったのだけれど、それに答えた後のひとの反応がなんか嫌だった。
一人っ子です。と答えると、いいなぁとか、大切に育てられたんだねとか、兄弟がいると思ってた、意外、などけっこういらいらする反応がいくつかあった。いらいらはしていたけど本当のところ、なににいらいらしているかはわかっていなかったと。
小学校、中学校時代、友人の多くには年上、年下の兄弟がいた。
小学校~高校前半まで、まだまだこどもなので彼らは頻繁に喧嘩していた。
それが大学生になると彼らの関係は次第に落ち着いてきて、仲良くなってくる。
大学1年生の自分は、友人たちの関係をみて、兄弟っていいもんだなぁ、とつくづく思っていた。(一人っ子<兄弟と思っていた)
そして、なんでこんなに羨ましくなるのかと疑問だった。
国境の南、太陽の西
色彩を持たない田崎つくると彼の巡礼の年 が刊行されるころ、世間は村上春樹特集などで話題になっていた。
その年のGWに、栃木に帰省し、母が車の中でこういった。
「テレビでやっていたけど、村上春樹って一人っ子らしいよ。なんかあんたと通じるところがあるのかもねぇ。その一人っ子をテーマにした小説があるらしいよ。けっこう前にでた国境の...なんとかっていう小説」
村上春樹が一人っ子だったのは、すごく驚きだった。
国境の南、太陽の西をすぐに購入し読んでみた。
その最初の数ページが自分にぴったりとあてはまる文章だったので、鳥肌がたったのをいまでも覚えている。
大抵の家には二人か三人のこどもがいた。それが僕の住んでいた世界における平均的なこどもの数だった。少年時代から思春期にかけて持った何人かの友人の顔を浮かべてみてみても、彼らは一人の例外もなく、まるで判をおしたみたいに二人兄弟か、あるいは三人姉妹の一員だった。
僕には兄弟というものがただの一人もいなかった。僕は一人っ子だった。そしてその時代の僕はそのことでずっと引け目のようなものを感じていた。自分はこの世界にあってはいわば特殊な存在なのだ、ほかの人々が当然のこととして持っているものを、僕は持っていないのだ。
子供の頃、僕はこの「一人っ子」という言葉がいやでたまらなかった。その言葉を耳にするたびに、自分には何かが欠けているのだということをあらためて思い知らされることになった。その言葉は僕に向かってまっすぐに指をつきつけていた。お前は不完全なのだぞ、と。
一人っ子が両親にあまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままだというのは、僕が住んでいた世界では揺るぎない定説だった。それは高い山に登れば気圧が下がるとか、雌の牛は多量の乳を出すとかいうのと同じ種類の自然の摂理とみなされていた。だから僕は誰かに兄弟の数を訊かれるのが嫌でたまらなかった。兄弟がいないと聞いただけで人々は反射的にこう思うのだ。こいつは一人っ子だから、両親にあまやかされていて、ひ弱で、恐ろしくわがままな子供に違いない、と。人々のそういったステレオタイプな反応は僕を少なからずうんざりさせ傷つけた。しかし、少年時代の僕を本当にうんざりさせ傷つけたのは、彼らの言っているのがまったくの事実であるという点だった。そのとおり、僕は事実あまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままな少年だったのだ。
確かに、一人っ子です。と答えることでなにか引け目のようなものを感じていたし、一人っ子という言葉自体が嫌だった。自分からみて、僕は事実あまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままな少年だった。というのもぴったり当てはまっていると思う。
これを読んだ後、なにかがカチッとはまるかのように、はっとした。面白いことに、全然ショックではなかった。
兄弟がいるの? という質問がなんか嫌だった理由を100%言語化していたので、長年の解けなかった問題が解けて清々しかった。
あまやかされていて、ひ弱で、おそろしくわがままだった という認めたくないけど認めざるを得ない事実をつきつけられた。しかし、いままでのわだかまりがなくなったほうが大きく、爽快感がとてつもなかった。
そして今
今考えると、一人っ子です。と答えたとき、人々の反応が自分にとって嫌な反応で、かつその反応をみて一人っ子=マイナスイメージと自身に刷り込んでしまったのだと思う。
自分の価値観がまだ出来上がってなかったから、大多数の人の反応に流されてしまったと思う。
現在は、一人っ子は半端なく恵まれているなぁとか、運が良かったなぁと思えてる。マイナスイメージは、ほとんどない。
身の上話、一人っ子の境遇はこのへんで。
Don't belive me,just to watch.